闕字、句読点、後付、大字 | 古文書サイトです。戊子サイトです。戊子=つちのえねでは古文書の基礎から上達まで、一般的な知識からその特徴やユニークなことまで、さまざまなページを作成しさらに追加しつつあります。このサイトによって古文書が身近になり古文書の楽しさ倍増になりましたら幸いです。2022年初夏からは江戸時代の武蔵野についての武野八景という書誌の解読を進めています。ホームから興味あるページをご覧ください。

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【戊子版】古文書沼のご参考読本
(卯)そうなの!:闕字、句読点、後付、大字

※ご参考読本(卯)【そうなの!:闕字、句読点、後付、大字】
この読本は拙子のわずかな経験の書き連ねです。一知半解で不足が多々ありますことをご容赦ください。

◯古文書に書かれている文章の体裁や様式にはいくつかの特色があります。
・定められた書式や様式があっても、書き手の立場や個性になど属人的要素で左右された面もあったように見受けられます。

・本項の「闕字」は古文書だけに見られる特徴的な表現で現在の文書では見ることはありませんが、その趣旨から想像するとあるいは皇室の文書では同様の書式が残っていることも考えられます。

・古文書の書式や様式を特徴づけているものは「返読、再読、置き字、返り点、追書、旧字、異体字、合字、畳字、割書、変体仮名、大字」などがあり、それらの内容も別項でのべていますので併せてご参照ください。本項文末にリンクがあります。

【闕字(けつじ)】
◯「闕字」(欠字ともいう)は古文書に見られる特徴的な表現方法の一つです。
・闕字は宛先人へ敬意を示す表現方法で、文中に高貴な人の名や物などを書く際にその人に敬意を示す記述方法です。その方法は該当する文字の前に空白を空けて記述することです。その空白を指して“闕字がある”といいます。

・高貴な人とは、天皇、将軍、貴人あるいはそれらに関連する言葉を含み、その範囲は氏名、役職、場所、施設、謚(おくりな)まで幅広く、また差出人と宛先人との立場関係によって敬意をはらう対象と闕字の方法も変わります。

・闕字には「狭義の闕字」「平出(へいしゅつ)」「台頭(擡頭)(たいとう)」の三種類があり、「狭義の闕字」とは、一字あるいは二字程度の空白を作ることをいい、通常は一字分の空白を作り、天皇に関することはより敬意をはらって二字分の空白とする原則が当初はあったようです。

・「平出(へいしゅつ)」は「平頭抄出」の略とされ、一字や二字の空白よりも敬意表現を強くしたもので、その文字の前で改行し他の行の書き出しと同じ位置から書き出すものです。

・「台頭(擡頭)(たいとう)」は「平出」よりもさらに敬意表現を強くしたもので、その文字の前で改行するのは「平出」と同じですが、書き出し位置は他の行よりも1~2文字分高く書き出す点が異なります。その書き出し文字を他よりも一段と大きく太く書くこともあります。

・闕字の様式は元来は朝廷の公文書として定められたものが時代の変遷とともに一般化したもののようで、天皇や貴人に限らない敬意表現として私信を含めて広く用いられるようになって、武家文書に限らず村方文書までの多くに見られる表現になったようです。

余談ですが、「闕」を説明する漢和辞典には「宮城。天子の居所」と説明されていますが、併せて「欠く。取り去る」との語意もあって不思議というか何か漢字の語意の多様さと難しさを感じます。また闕字は落語にも登場します。三遊亭兼好師匠の「陸奥間違い」という演目です。江戸の五十表二人扶持の御納戸役がとある事情から、同輩への書状を中間に持たせて使いにやります。その書状に闕字が用いられていてアレコレ・・・と、大変面白く聴いたことがあります。この落語と同じ闕字の用例として目にしたもので、真田信繁(幸村)の書状(※)で「小山田壱岐守様」を「小壱岐様」と宛名書きしているものがありました。(※)星海社新書「真田信繁の書状を読む」丸島和洋著から

・江戸時代の闕字スタイル(敬意表現)はその対象と空白の位置にさまざまな用例が見受けられます。
「 御公儀」「御 公儀」「 御城」「 殿様」「於 御所」「被 仰付」「被為 下置候」など

・「殿様」の前を闕字ではなく改行しているものもあるなど一様ではありません。
私信では「一 筆」「 益御勇健」「 東方」などもあります。

・このように先方への気遣いの表現手段として頻繁かつ気軽に用いられていたように見受けられます。

・本項の闕字と類似した様式に「欠画・闕画」という用法が辞書に載っています。これは貴人の名をそのまま書くことを避けるべきとして、例えば「玄」の最後の一画「、」を省略するなどの書き方があったそうです。このことを「欠字」「欠筆」とも説明しているものもあります。これらは現代の捉え方では単なる異体字や旧字と簡単に位置付けてしまいそうですが、簡単には決めつけられないものと、漢字の伝来と変遷や用法に膨大な歴史を思いました。

【句読点】
◯「句読点」は古文書には使われていないのが通常です。大きな特徴の一つです。
・現在の我々からみると実に不思議な書き方で、古文書には句読点に限らず改行も段落もない文章ですから、その解読や内容理解に決して小さくないハードルになっています。

・当時はそれらの習慣がなかったことが通常で当時の文化でもあったということと思います。しかし、実際のところ読み難く書き難いのは当時も同じだったのではないかと思われて仕方がありません。当時の人々の感覚はどうだったのでしょうか、句読点や改行が使われていた場面はまったくなかったのでしょうか。当時の寺子屋などの読み書き風景に思いを馳せてしまいます。

・拙子が目にした2.3の例では、版本の往来物やハウツーものや、平仮名しか読めない庶民向けに書かれた平易な文書には「。」が付されているものがありました。また文書によっては読点とは考えられないほどに「。」が多数出現するものもあって、当時の「。」の用法がどのようなものであったか拙子は未解明です。

・いずれにしても、当時の人々は句読点も改行もない文書を難なく書きこなし、そして読みよどむこともなくスラスラと頭に入っていったに違いありません。

・似たような例が変体仮名や同音異字の用法にも表れていますが、これらは当時の人々の識字力の高さと教養レベルを表していると思います。そして教養の外見的なこだわりの「見栄を張る」的なことを重視する、そおれが日本人的な顕著な表現方法の一つではなかったかと拙子は考えています。

・句読点を付すことが一般化したのは明治御一新での国語教育からとも側聞しています。

【後付(あとづけ)】
◯「後付」古文書の末尾に書かれる日付・差出人・宛名・時刻などです。
・後付には次の事項が敬意表現を含めた書式で記載されています。

<日付>
・日付は本文の後に本文よりも若干字下げして書かれます。

・日付には「年」が書かれていないことも多く、これは文書作成時期の特定に少なからず影響を与えています。文書の作成時期を特定する際には、文書中の事実を歴史的事実や他の文書と照らし合わせることや、書き振りや登場人物との関係などさまざまな観点から類推して作成時期を推定することが行われています。

・日付には干支(十干と十二支)を併せて書くことが一般的で、本文中でも年や時期に言及する際には干支で表記することが多用されています。

<差出人>
・差出人や署名は本文のすぐ後に下寄せして書かれます。

・村方文書に多く見られるものに差出人として関係者まとめて連署しているものがあります。ときに数十名連署しているものあります。この場合は先頭から後尾に向かって身分や階級が高いという決まりのようです。

<宛先>
・宛先は差出人や署名の後ろに書かれますが、身分差によって高い位置から書き出すものと下の方に書かれるものがあります。

・差出人より身分が高ければ差出人より大きく丁寧な字体で高い位置から書き出します。

・村方から代官所などに提出する文書は差出人は下に小さく細く、宛名は大きく太く書かれ、逆に武家から村役人への文書では、差出人(自分自身)の名は大きく尊大に書かれ、宛先の村名や村役人の名前は左下に小さく見過ごされそうに書かれています。顕著な身分制度の表れです。

・武家同士の場合の宛名は、日付の書き出し位置と関係があるようで、高い身分宛の場合は日付より高い位置から書き出し、低い身分宛であれば日付より低い位置から書き出すということが行われていたようです。このようなことを知ったうえで古文書に接するとそれなりの解釈もできそうです。

・一般的に身分が高い人の役職や名前は楷書に近い書き方をする傾向があります。宛先人名に付す「様」と「殿」は「様」の方がより敬意をはらった表現で、さらに「殿」ではなく「との」と書く場合は明らかな身分差をもとに軽い扱いを示していたようです。

・宛先人の左側やや下に「御中」「人々中」などと書かれているもよく目にします。これを「脇付」といい、やはり敬意表現の一つです。

<時刻>
・時刻が文末の年月日の箇所に記されていることがあります。

・書かれた時刻は文書の発信時刻や到着時刻、閲覧時刻などで、それを「刻付」(こくづけ)といいます。

・時刻が書かれるのは文書の授受時刻などを明記する必要がある場合で、差出人と宛先人の権利関係の書状や、代官から村方への下達を村々へ伝達する廻状に各村が受け渡し時刻を記録するなどがあります。

◯【闕字】や【後付】の敬意表現など、古文書の様式にはさまざまな約束事があり特に身分差を示していますが、時代の変遷のなかで文書の重要性が増すにしたがってさまざま決め事が生まれ、「書札礼」(しょさつれい)や「書札礼式」(しょさつれいしき)として書式作法が定められてきたようです。身分制度のもとではこの書式は重要で書式に外れた書状は非礼とされ受け取ってもらえないこともあったようです。

・大名の主従関係や朝廷との関係ならいざ知らず、下級武士間のやり取りや朋友同士でも身分や扶持の多寡をあからさまに反映していたのでしょうか、あるいは状況と場合によりだったのかこの辺りにも古文書の面白みがあると思います。

【大字】
◯「大字(だいじ)」は数字の漢字表記です。
・大字と漢数字は別で、「一、二、三・・・十、百、千、万」や「廿(にじゅう)」丗(さんじゅう」は漢数字です。

・漢数字と大字を対応させると、「一:壱or壹」「二:弐or貮」「三:参」「四:肆」「五:伍」「六:陸」「七:漆or質」「八:捌」「九:玖」「十:拾」「百:佰」「千:仟&阡」「万:満」のようになります。

・大字の「肆、伍、陸、漆or質、捌、玖」はまだ目にしたことがありません。そのほかの大字は「廿、丗」も含めて頻出しています。

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  • 善哉よきかな (6)
(子)はじめに:古文書とは・・ (丑)そして:くずし字に少し慣れたら (寅)どう読む?:返読、再読、置き字、返り点 (卯)そうなの!:闕字、句読点、後付、大字 (辰)さもあらん:旧字、俗字、略字、異体字、合字、畳字、割書 (巳)これもまた:変体仮名、同音異字、追書、干支 (午)ふむ・ふむ:翻刻文、書き下し文、読み下し文、解説文 (未)うろたえる:我が身とも格闘 ・・・・: 2022.3.27アップ(亥)あれこれと:雑感です
(甲)甲と甲:甲州法度之次第、甲州道中 (乙)おっとっと:異なる意味も
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