【武野八景の四・函碕舊池-P2】の翻刻・訳文・注釈
南自驛續青梅大 ⇒前ページ「函碕舊池-P1」からの繰り越し
南は驛より青梅に續く大道にして、人馬の聲林を隔てヽ響き、最も幽閑の地なり、中央
纔に方四五十歩の淺水を餘し、
・驛=駅⇒宿駅(宿場)⇒箱根ヶ崎宿
・續=続
・大道⇒青梅街道を指す。
・聲=声
・幽閑:(ゆうかん)奥深くて静かなこと、静かで落ち着いていること
・纔:(さん、せん)わずか、少し
・方⇒四角のものの一辺の長さ
・淺水:(せんすい)水面から底までがわずかな深さの水
・餘=余
洲中古木の下に、天女の祠存せり、此れ昔時の島跡か否るか、得て審にす可ずや、初め
水の未た涸れざる、
・洲中⇒中州(川の中で土砂の表れたところ)と同義と解す。
・昔時:(せきじ)むかし、いにしえ、往時
萬頃漭沆として、淺深を測らず、淫雨にも增さず、旱魃にも減らず、傳へ言ふ神龍潛蔵
して之か主たりと、
・萬頃:(ばんけい)地面や水面などの非常に広いこと
・漭沆:(ぼうこう)水が果てしなく広がっているさま
・淫雨:(いんう)いつまでも降り続く続く雨、長雨
・增=増
・傳=伝
・潛蔵:(せんぞう)ひそみ隠れる、潜伏
里人悚懼して、敢て貫瀆せず、夏月白丁數輩、岸に就て納涼す、相ひ謂て曰、誰そや
游て島に至る者の有んか、
・悚懼:(しょうく)おそれおののくこと
・貫瀆:(かんとく)なれ侮ってけがす
・夏月:(かげつ)夏。夏の季節
・白丁:(はくてい)庶民。無位無官の民
・數輩:(すはい)かなり多い人数を漠然という
・游:(ゆう)泳ぐ、遊ぶ
次郎兵衛という者聲に應して曰、我れ能せんと、遂に衣を脱て投す、岸上駆て目を囑す、
・應=応
・囑:(しょく)見る、注意して見る、見続ける
須臾にして島に登り、岸に向て立て呼つて曰、果して我か勇を知るかと、既にして反り
游く、小蛇來り觸れて其の腰を巻く、
・須臾:(しゅゆ)しばらく、少しの間、暫時
・來=来
・觸=触
初極て短小にして一周に足ず、忽ち二周して絞こと稍〳〵緊し、
・稍稍:(しょうしょう)ようやく、しだいに、だんだん
・緊:(きん)きびしい、ゆるみがない
次郎兵衛覺非常 ⇒この部分は次ページ「函碕舊池-P3」へ繰り越す。
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