【武野八景の一・六所挿秧-P2】の翻刻・訳文・注釈
畫不 ⇒前ページ「六所挿秧-P1」からの繰り越し
畫して災を為ず、古より粢盛匱乏の憂へ無し、故に一州の民、神田の豊稔我か私に
及んことを願ふ者、
・畫=画⇒分けるや区画の意、「神田は他の田畑と違って」の意と解す。
・粢盛:(しせい)神に供える穀物や餅
粢(し)穀物の総称、特にきびをいう
・匱乏:(きぼう)とぼしい、衣食が足りない
匱:(き)ひつ、とぼしい
・一州:(いっしゅう)一つの国、その全体、全国
・豊稔:(ほうじん)豊かに実ること
稔:(じん、ねん)稲が成熟する、穀物が実る
西より東より、南より北より、秧を持して来り集り、田上雲のごとし、一朝に挿し畢て、
・秧:(よう、おう)苗、稲や草の苗
・畢:(ひつ、ひち)終わる、終える
祝聲止まず、或は躍り或は抃ち、遊戯蹂躙、甚た壮觀為り、是に於秧皆泥に没すと雖、
・遊戯=原文はあえて熟語表現記号(竪点)を付している。「あそびたわむれる」と読まれることを避けたと解した。
・祝聲=祝声⇒辞書にない熟語だが、読み「しゅくせい」で意は字義のとおりと解した。
・抃:(へん、べん)うつ、手をうつ、手をたたく
・蹂躙:(じゅうりん)踏みつけること
・觀=観
明旦勃然として起き、其の挿するや種を異にして、其の獲るや穂を同す、俗傳へ言ふ、
・明旦:(みょうたん)明日の朝、明朝
・勃然:(ぼつぜん)急に、勢いよく起こるさま
・傳=伝
六所七恠有と、是れ其の一なり、毎年例祀、五月を大なりと為、三日の夜に始り、五日の
夜に終る、
・恠=怪:(かい、け)怪しい、怪しむ
・例祀=辞書にない熟語だが、読み「れいし」で毎年決まった日に行われる祭祀の意と解す
・為レ大ナリ-(レは返り点)⇒原文のこの解読に窮した。「大(だい)」は重んずる、尊ぶの意と解せる。しかし「ナリ-」の「-」が不明のままだが「ナリト」として解釈した。
明晨乃神田の挿秧なり、記に據るに、景行帝四十一年、五月五日、大巳貴尊の神此に
に降る、
・明晨=辞書にない熟語だが、原文は熟語表現(竪点あり)になっている。
晨:(しん、じん)朝、夜明け
・乃:(すなわち)ある動作の終わったその時、途端
・﹂⇒原文のこの記号の用法が理解できていない。引用範囲の終点を表すものではなく、この後は言い伝えをそのまま記す意味と解せる。
・據=拠
・景行帝:(けいこうてい)景行天皇は第12代天皇(古墳時代)、日本武尊(ヤマトタケル)の父
・景行帝の書き出し位置が他の行より高い⇒「擡頭(たいとう)」という敬意表現。景行帝に敬意を表している。行の途中にその名を記すのは欠礼として字を余らせて改行し次の行でより高い位置に書き出すもの。
・大巳貴尊=古事記では大国主神(おおくにぬしのかみ)の名
帝命して廟を建つ、配するに去來冊尊、服狹雄尊、亞肖氣尊、
・帝命の書き出し位置⇒擡頭による敬意表現になっている。
・帝命じて⇒原文の「帝命して」は「帝が命じて」と解した(「帝命があって」の意とも読める)。
・廟:(びょう)霊を安置する堂、神社、祠、王宮の正殿⇒次ページに表れるが「六所宮」を指す。
・去來冊尊⇒伊邪那美命と同一か⇒配偶者伊邪那岐命は天照大御神の親
・服狹雄尊⇒須佐之男命と同一か⇒天照大御神の弟
・亞肖氣尊⇒迩迩芸命と同一か⇒天照大御神の孫
布留 ⇒この部分は次ページ「六所挿秧-P3」へ繰り越す。
【武野八景の一・六所挿秧-P2】ここまで