【武野八景・序文1-P2、翻刻・訳文・注釈】
Ⓐ藤 ⇐前ページの文節残り
藤君明夫桑梓の地なれは、即童稚の遊戯、竿に膠して鳥を黏し、
・Ⓐ⇒この位置に「空白」がある(原文はやや分かり難い)。空白は藤君明夫に対する敬意表現の闕字
・藤君明夫:(とうくんあきお)序文撰者である關脩齢が本誌作者の狹南山人(本名は大久保忠休、序文記名は狭南藤忠休、別に挟南藤忠休明夫の記名あり)を「君」と尊称
・桑梓:(そうし)くわとあずさ、暮らしの助け、敬老、故郷、郷里
・膠:(コウ)にかわ、動物の骨や皮などを煮詰めて作った接着剤
・黏:(ネン、ねばる)=粘
犬を嗾して獣を逐ひ、足跡夫遐陬奥區を極めたりⒶ、
・嗾:(ソウ)けしかける、そそのかす
・遐陬:(かすう)遠い田舎、人里離れた所、辺鄙な土地
・奥區:(おうく)奥深く、険要の地
・Ⓐ:原文はここに「矣」があるが、断定や強調の意の置き字(訓読では読まない)であり書き下し文では記載しない。
今はⒷ席を 都門に抗て藝を講して虚日無、猶徃者の遊ひを想ふ、
・Ⓑ:原文はここに「也」があるが、語気を強める働きの置き字(訓読では読まず書き下し文では記載しない)と解釈(「也」が置き字になる例は少ない模様)
・都門:(ともん)都の門、みやこ。「都門」の前の空白は「都門」という場所や施設に対する敬意表現の闕字
・抗:(こう)上にあげる、進める、高くする。
・藝=芸:「芸」には学問、学術、学者の意あり。
・虚日:(きょうじつ)何事もない日、何もしない日、ひまな日
・徃者⇒原文は「徃者」となっている。⇒辞書には「徃者:(おうしゃ)行く人、去り行く者、過去、以前に」がある。
偶〳〵少間無事を得、壻石生を拉て、其地に遊歴す、
・少間:(しょうかん)少しのひま、少し休む
・無事:(ぶじ)⇒ここでは「仕事がない、することがない、ひまなこと」の意
・壻石生⇒女婿の石子享(せきしきょう)を指す。名を文之進、号は清叟園、本名は「石井子享」カ
・拉:(ら、ろう)ひく、ひっぱる、引っ張って連れて行く。
乃舊識迓へてⒶ随ひ行く、Ⓑ君先つ走て勝を得、多岐も迷はず、
・乃(だい、ない)すなわち
・舊識=旧識(きゅうしき)=旧知(きゅうち)もとからの知り合い、古馴染み
・迓(が、げ)むかえる=迎える、出迎える
・Ⓐ⇒ここにある「而」は置き字であり書き下し文では記さない
・Ⓑ⇒ここにある「空白」は藤君明夫に対する敬意表現の闕字(原文4行前の「藤君明夫」の前の闕字空白と同じ)
・先つ走て:「・・最初に急いで・・」の意と解釈
・ず⇒原文「不迷ハ」の「不」は助動詞にあたり書き下し文では「ず」と平仮名で表記
木を指て曰、此れ余か幼き時縁て以鷇を探る、水に臨めは則曰、
・鷇:(こう)ひな、ひよこ
此撈てⒶ魚を捕る、歴々として指し數ふ、聞く者駭然たり、
・撈:(ロウ)とる、すくいあげる。
・Ⓐ⇒ここにある「而」は置き字であり書き下し文では記さない
・歴々:(れきれき)明らか、はっきり、晴れがましい。
・數=数
・駭然:(がいぜん)驚くさま、愕然
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【武野八景・序文1-P2、ここまで】