【武野八景・序文1-P1、翻刻・訳文・注釈】
※序文は關脩齢なる人物によるものと作者本人によるものとあります。まず關脩齢による序文3ページをP1.p2.p3に分けて表示します(關脩齢の説明はP3)。
武野八景序
武の野は、史乗の載する所、歌詠の采る所、勝地名区、
・武の野(ぶのや)⇔この表現は「武」(武蔵の国)の「野」(郊外、いなか、野原)の意味合いと理解した。本誌では「武野」と言い「武の野」と言い「武蔵野」と直接的に表現していないが、本誌から10年後の文化五年(1808年)に作者は「むさし野八景 仮名略文」を発刊しているので、すでに「武蔵野」の名称は当時一般的だったと考えられる。「武野」は漢文的な表現効果を意図し「武の野」は序文ゆえの説明的表現であろう。
・の⇒原文の「之」は助詞で書き下し文は平仮名で表記
・序:(じょ)前書き、序文、いとぐち、ついで⇔跋(ばつ)おくがき、あとがき
・史乗:(しじょう)歴史上の事実。「乗」は記録の意
・歌詠:(かえい)うた。声を長くして歌う
・采:(サイ、とる)えらびとる。知行所。いろどり
・勝地:(しょうち)地勢が優れている。景色のよい土地
・名区:(めいく)景色などで有名な土地
固より乏しからざるなり、夫れ昇平の久しき、人民殷衆、
・の⇒原文の「之」は助詞で書き下し文は平仮名で表記
・なり⇒原文の「也」は助動詞に当たる漢字なので書き下し文では平仮名で記述
・昇平:(しょうへい)世の中が平和に治まっている
・殷衆:(いんしゅう)盛んで多い
墾してしょしょくを藝え、民徙つて居址す、勢ほひなり、氓の蚩々たる、
・黍溭:(しょしょく)もちきび、うるちきび
・藝=芸
・徙:(と)うつる、場所を変える、移動する
・居址:(きょし)居住と同義カ
・氓:(ボウ、たみ)人民、移住民、愚かな民
・蚩蚩:(シシ)手厚いさま、おろかなさま、無知なさま、乱れるさま
以て古へ依斯若しと為、茫乎として古えの名を得る所以んを識ること莫して、
・茫乎:(ぼうこ)とりとめのないさま、ひろびろとしているさま、呆然
・所以:(ゆえん)理由、わけ、いわれ
・莫:(ボ、バク)なし(否定表現)、なかれ(禁止表現)
🄰獨り🄱玉川の水、能く🄲東都の尊賤億萬の渇を已むるに誇る而已、
・🄰:原文はここに「而」があるが、先行文字の送り仮名「テ」で順接の置き字(訓読では読まない)であり、書き下し文では書かない扱い
・🄱:原文はここに「於」があるが、後続文字「玉川」が場所や対象であることを表現する置き字
・🄲:原文はここに「空白1文字」があるが、後続文字「東都」への敬意表現の闕字(空白は闕字の一種)
・尊賤⇔同義の「尊卑」は現在の辞書にある言葉。ともに「とうといことといやしいこと」の意だが字義は若干異なる。作者は意識したのか、当時は存在した言葉か。拙子も「賤」の方を用いたい。
・而已:(のみ)‥だけである、‥にすぎない
藤 ⇒この部分は次ページ「序文1-P2」へ繰り越す
【武野八景・序文1-P1、ここまで】